一年を通じて、子どもたちに高度な海洋教育・研究を体験してもらった同イベントも1月14日(土)の冬版が最終の講座となりました。
ドローンやデジタル顕微鏡などを駆使した生物観察と生物データベース構築活動に加え、北海道大学の東条助教授と生徒さんたちから高度かつグローバルな情報が吸収できる特別講義、バスツアーや秋鮭を使った調理体験など、思いつく限りの趣向を凝らし、刺激的で学びの深いものにしてきたつもりです。
大分遅くなりましたがここに成果報告をさせていただき、全研究生10名の栄誉を称えたいと思います。
1年間の「海での学び」と調査結果をふり返り、まとめ学習
「冬版」の冒頭、これまで「春版」「夏版」「秋版」の3回で学び、調査した結果をふり返る「まとめ学習」を行いました。ジュニア研究員の子どもたちは、成果を自分なりに理解し吸収するための「活動レポート」に記入を進めながら、スライド学習に聞き入ります。
5月に開催された「春版」のテーマは、「スケールの大きな海の世界」。江差町かもめ島での生物観察フィールドワークを通じて「身近な海」に触れたあと、北海道大学助教授 東条先生の「海は宇宙からやって来た?」「江差の海は世界の海とつながっている」などの規模の大きなテーマの講座に目を輝かせていたのが印象的な回でした。
7月開催の「夏版」では、「江差の海の健康診断」を目的として活動。徒歩で調査できない場所のドローン調査と上空からの藻場撮影、水中ドローンでの小魚の群れの観察に、水中カメラを投入しての「ハスノハカシパン分布密度調査」。さらには海水サンプルを採取してのプランクトン観察までを立派に成し遂げてくれました。夏らしく海に入って生物観察も行い、その後の先生の特別講座では「サンゴがプランクトンを食べる音」や「世界の海の中の様子」など、豊富な動画資料を駆使した楽しく専門的な学びのある時間が展開されました。
9月に開催した「秋版」は「地域漁業と食を知ろう」をテーマに、早朝からバスツアー方式で各漁業拠点を巡りました。当日が初水揚げであった「秋鮭漁」について「定置網の仕組み」「稚魚の中間育成の取り組み」や地域漁業の課題などを、港での漁師さんへのインタビュー方式で学びました。ひやま漁協さんでの水揚げ品やナマコの養殖現場の見学を終えたあと、「夏版」での藻場撮影で気になっていた「磯やけ」の可能性がある海域のドローン撮影によるデータ取得も実施。秋鮭を捌いて、アニサキスの正しい処理方法を学び、石狩鍋も試食してもらいました。先生の「魚の冬ごもり」のお話なども含め、非常に内容の濃い回となり、研究員の子どもたちが生き生きと学習をしてくれたのが印象的な回でした。
それらを思い出の写真とともにスライドでふり返り、積極的な発言を交わしながら、活動レポートを書き進めていくみらいジュニア研究員の姿に、大きな成長を覚えた時間となりました。
東条先生の活動を通じて知る、世界の「冬の海」
まとめ学習に続き、東条先生からの最後の特別講座。冬版にあわせて、テーマも冬の海です。海中は静かですが、しっかりと「生態系サービス」が維持され春に備えていることを学びました。昆布の実物に触れながら聞く海藻のお話や、「コンブ」の語源はアイヌ語とされていて、流通を通じて中国に渡り日本へ逆輸入された単語だという興味深い知識も得られました。
特に、先生が活動をされているモーリシャスのお話には研究員たちも興味津々。インド洋に浮かぶモーリシャスの冬は、日本と真逆の季節。ウミガメや熱帯魚が泳ぐ綺麗な映像を見せてもらいながら、江差との接点に触れます。ここ江差での調査では「ハスノハカシパン」の個体数の多さが藻場の育成を脅かす可能性が指摘されました。ところが反対にモーリシャスでは、テングハギの個体数の減少による藻場の分布拡大が、サンゴの育成を阻んでいます。江差では「海のギャング」に脅かされる藻場が、モーリシャスでは「海のギャング」のような存在になっている、という子どもたちにも理解しやすいストーリーで講座が展開。「生態系バランスの大切さ」と、人ができる「海洋環境保全の取り組みの重要性」を、しっかり聞いて理解してくれました。
成果を総括、財産として残り、次世代につながったバトン
みらいジュニア研究員の記入した活動レポートと、ディスカッションの中でまとめられた調査成果の総括は以下の通りです。
<春版>
■かもめ島は天然の「海浜植物園」だった
■藻場が豊かで、島が天然の防波・防風堤となっているかもめ島は「海の幼稚園」
■海に囲まれ、自然公園でもあるかもめ島は「人と海に守られた動植物の楽園」
■海洋漂着ごみの多さは国際的な課題
<夏版>
■ドローン調査でハヤブサの営巣が確認できた
■豊かな藻場、賑やかな海中の様子が確認でき、江差の海は健康な状態だった
■ハスノハカシパンの生息密度過多な地点があり、継続調査が必要
■磯やけの可能性がある海域を確認
<秋版>
■漁業と市場流通の仕組みについて理解できた
■磯やけの定点調査に着手できた
■磯やけの継続調査と水中観察による実地調査も必要
■正しいアニサキスの処理方法は「70℃以上でしっかり加熱」
<冬版>
■健康な江差の海を維持し、ニシンに戻ってきてもらえた時に備えなくてはいけない
■次のみらいジュニア研究員にも調査を継承してほしい
<総合>
□海洋生物13(新規11種、卵塊1、現象1)
□鳥類32(新規32種)
□は虫類1(新規1種)
□昆虫3(新規3種)
□植物23(新規20種、再掲載1、2021年訂正2)
■これらを「かもめ島生物データベース&マップ」にアーカイヴ
https://marineping.esashi.town/creaturemap/
みらいジュニア研究員が1年の活動で取得した動植物観察データは新たにデータベースとして蓄積されると同時に、地域の観光・教育振興にも役立てられます。かもめ島マリンピングが1年間継続してきたもうひとつの教育連携プロジェクト「江差高校 地域学×かもめ島マリンピング」で完成させた教育旅行向け体験プログラムのひとつ、「海に”触れる”アドベンチャー・ハイク」でのツールとして使用される予定となっています。江差の小学生が集めたかもめ島の生物データを活用し作られたマップをもとに、高校生が考案した体験プログラムを通じて海の観察学習を提供できるという、複合的な取り組みとして成果を残しました。
次世代のみらいジュニア研究員にバトンをつなぎ、より良い成果と学びの提供を引き続き提供できるよう、着々と準備を進めています。
無事、全員そろって「修了式」を迎えました!
素晴らしい成果がまとめられた「みらいジュニア研究員」。運営事務局および東条先生、江差町長の総意として、全員の修了を認定するに至りました。ささやかなお祝いとして、長く町内でできなかった餅つきを体験してもらい、全行程が終了。
江差町長から「修了証」、東条先生から「認定証」が授与され、晴れて第一期生の修了を迎えることができました。今後も各自に海へ足を運んでの独学、あるいは「日本財団 海と日本プロジェクト」のイベントへの継続参加を通じ、海への興味を絶やさないことを研究員たちは誓ってくれています。
海の町”江差っ子”にふさわしい高い海洋知識を身につけ、「海の普及員の一員」として今後もかもめ島マリンピングと一緒に素晴らしい活動をしてくれることでしょう。
参加した子ども・保護者からの声
・次回も継続参加したいです。
・海藻で料理をしてみたいです。
・釣りに行くときには、一緒に海洋漂着ごみ拾いもしていきたい。
・1年間、とても楽しかった。終わってしまうのがさみしい。
・シュノーケリングで磯やけちょうさをしてみたいな。
・先生、ぼくをモーリシャスに連れて行ってください。
・毎回、感性を揺さぶられる先生の講座でした。
・子どもたちでかもめ島の活動のCMを作らせてみたい。
・今後、ほかの港町との連携ができるとさらに良い。
・江差ならでは、SUPを調査活動に活かしてほしい。
・海藻の染め物や押し葉などのイベントも楽しそう。
・都会の子どもたちにも、是非参加対象を広げてあげてください。
かもめ島マリンピングから修了生のみなさんへ
1年間、本当に頑張ってくれました。
毎回「初めて」尽くしで、大変だったことと思います。
水中ドローンの操縦に、苦手な生き物の採取。海外の留学生さんとの異文化交流や別の学校の生徒たちとの触れ合い。
どれもが皆さんの財産となります。
そして、皆さんが私たち「かもめ島マリンピング~海と日本PROJECT~」の財産です。
これからも私たちクルーの仲間としての「海の広報」活動、宜しくお願いします。
本当にお疲れさまでした、ありがとう!